先日、私のもとにFX歴6年、累計損失1億円を超えるという、逆億り人の方からメールが届きました。
この方から頂いたメールは許可が出なかったので掲載できませんが、彼のメールの文面から感じたことは、トレーダーとしてのメンタルがまるで確立されていないことです。
自分自身のメンタルを鍛えることを放棄して、ひたすら聖杯を探し続ける、最悪のスパイラルに陥っていることに、当の本人は全く気付いていませんでした。
FXトレードで勝ち続けるためにはメンタルが大事だと言う話は、おそらくあなたも耳にタコが出来るほど聞いてきたと思います。
しかし、メンタルが大事と言われても、巷にあふれるのは理想論を掲げるだけで、具体的にどうしたらいいのか?何に気をつけたらいいのか?日々の生活で出来る対策はあるのか?など、細分化した話はほとんどありません。
今回は、行動経済学が明らかにした、人間を支配する5つのバイアスと、その対策としてのメンタルコントロール術を解説していきたいと思います。
これから紹介する5つのバイアスは、我々人間が猿から人へ進化していく過程で必要だった機能であり、人によっては、意識して認知しようとしても出来ないほどに無意識レベルで刷り込まれているバイアスでもあります。
それゆえに、我々はこれらのバイアスを完全に回避することは不可能です。
トレードを長く続けていると、どこかで必ずバイアスにかかった状態で判断をしてしまうときが少なからずあります。
普段の生活での認識や判断でも強くかかっているバイアスですが、金銭が絡むトレーディングとなると、非常に強くバイアスに偏ってしまい、それらのバイアスが原因で破産してしまう人が後をたたないのが、FXトレードの世界です。
トレーディングを続けていくと必ずどこかでバイアスに偏ってしまうことはあるでしょうが、バイアスに自分自身が支配されることだけは絶対に避けなければなりません。
今回の記事の結論を先に言ってしまうと、何かを決める(始める)権利は常に自分にあるということを忘れなければ、バイアスに支配されることは免れることが出来るというのが、私の持論としてあります。
これら5つのバイアスを知らずにFX相場に参加するのは、自殺行為以外の何物でもないので、しっかりと読んで、あなたの血肉としてください。
確証バイアスは人間を真理から遠ざける根本の原因

確証バイアスとは、一言で説明すると先入観のことです。
それぞれの人によって様々な先入観があり、客観的には同じものでも、人によって様々な答えが出てきたりする現象は、全てこの確証バイアスが根本の原因にあります。
そして、何よりも厄介なのが、何も意識しなかったら、人間は自分の先入観を肯定する情報しか見えなくなってしまうことです。
自分の先入観を肯定するような情報しか入ってこないため、客観的な分析というものは訓練を積まない限りほとんどの人は出来ません。
この確証バイアスに支配されないために最も重要なのが、常に科学的姿勢を取るという方法です。
科学という学問は、それぞれの先入観で導き出された1つの仮説が正しいことを証明する学問ではなく、その仮説が間違っているということを証明するのが、科学という学問の基本姿勢です。
「科学的に証明された」ということは、その説が正しいことが証明されたのではなく、現在までの科学力でその説が間違っているという証拠が発見できていない説のことです。
この科学という学問の姿勢は、確証バイアスの支配を回避するのに非常に参考になります。
科学的姿勢とは、自分の先入観から導き出されたものが間違っているという根拠を常に探していく意識のことです。
我々トレーダーは、自分の今までの経験や使っている方法論などの先入観でチャートを分析し、自分の信じていることや方法論を肯定するようにしか相場を解釈できなくなってしまいます。
常にこの科学的姿勢で相場と向き合う訓練を積まない限り、客観的な相場分析は不可能です。
自分の先入観を否定するものを常に探す癖をつけることで、何かに固執したりする感情的な問題というのがほとんどなくなります。
完全なる客観の立場で人間が何かを見ることは不可能ですが、自分の殻に閉じこもってありのままの相場を受け入れないというのはFXトレードでの数々の問題行動の根源にもなりえますので、常に内省して、確証バイアスに踊らされていないかを確認するようにしてください。
正常性バイアスが、ド素人を相場へ駆り立てる

正常性バイアスを簡単に説明すると、「自分は大丈夫」という根拠のない謎の自信のことです。
およそほとんどの初心者FXトレーダーは、この正常性バイアスに駆り立てられてFX相場へ参入していきます。
まさか、お金を減らす気100%でFXを始める人などいるはずもなく、どこかで必ず自分はトレードで勝てるという謎の自信は、あなたも経験したことがあるはずです。
そして、この正常性バイアスが強い人は、リスクというものを客観的に計算できない傾向があります。
頭の中のリスク計算の定式に、「自分」という謎の変数を入れて、メチャクチャなリスクを取ってしまうのです。
このバイアスの対策として、私の経験で最も有効だったのが、「破産」という経験です。
「自分は大丈夫じゃない」ということを理解するには、「口座を溶かす」という痛みが1番有効でした。
少額の資金を運用しているうちに、口座を溶かす経験をするのは、私は非常にいい勉強だと思っています。
ただし、その経験から何も学ばなければ意味ないですが…
「自分は大丈夫ではない」ということをしっかりと理解しなければ、相場の世界で長く生き残っていくことは不可能です。
相場の世界においては、自分はただの小さな魚に過ぎず、決してクジラではないということを忘れてはなりません。
たとえクジラであっても場合によっては木っ端微塵に消し飛ぶのが相場の世界です。
自分は特別な存在ではなく、相場の世界ではいつ狩られてもおかしくない小さな魚の一匹に過ぎないということに気付くことが、勝ち組トレーダーへのスタートラインだと私は考えています。
追認バイアスが、損切りが出来ないトレーダの根本原因

追認バイアスは、先ほど説明した確証バイアス(先入観)で導かれた情報が正しいと判断した場合、たとえその判断が間違っていたとしても、その間違いを認めることができなくなるバイアスのことです。
このバイアスが強い人は、損失を確定することが出来ずに、ズルズルと損失を引きずり続け、気付いた時にはとんでもない額の損失になっているパターンの負けトレーダーです。
頭では損切りしなければならないとわかっているのに、損失を確定させるために握っているマウスのボタンが押せないという現象は、トレーダーなら誰しもが経験することです。
なにかに依存しやすい体質の人は、例外なくこの追認バイアスが強い人です。
確証バイアスでは、自分の先入観を肯定する情報しか見えなくなると説明しましたが、確証バイアスが追認バイアスの段階まで移行すると、自分の先入観の肯定情報ではなく、自分が行った行動を正当化する情報しか見えなくなります。
自分が行った行動が間違っている可能性が高い時に、何かしら理屈をこねて正当化しだしたら、即相場から離れるべきです。
この追認バイアスは時間が長引けば長引くほどより強固なものとなり、最終的には自分の意志だけではどうすることもできなくなってしまいます。
追認バイアスの対策として有効なのが、判断回数を減らすことと、指値逆指値でエントリーして、ストップとリミットを設定してチャートから離れることです。
追認バイアスが強い人は基本的に判断回数が多いスキャルピングやデイトレードは向いていません。
判断の回数分だけ、そのポジションに依存してしまう可能性が上がるからです。
追認バイアスが強い人は、指値逆指値注文でエントリーして、ストップとリミットを設定するスイングトレードが向いている傾向にあります。
追認バイアスが強いと、成り行きでのエントリーはポジションに愛着を持つ強いキッカケとなり、成り行きでの損切り、利食いが非常に難しいので、全てシステマチックなトレードに任せたほうがいいです。
プロスペクト理論は、最小の利益と最大の損失を生む

行動経済学でいちばん有名なのがこのプロスペクト理論です。
プロスペクト理論は、下記の3つのことが核となっています。
- 人間は参照点からの差分に最も反応する
- 人間は、利益を得るときよりも、損失を出すときの方が1.5~2.5倍過剰に反応する。
- 許容範囲を超える損失が出ている状況で、なぜか人間は更なるリスクを取る。
上記の3つを簡潔にまとめると、人間は目の前にある確実な利益を取り、目の前にある損失は回避し続ける傾向があるということです。
なんの訓練も受けていない一般の人間は、利害が絡むほぼ全ての判断で、無意識にプロスペクト理論に従って意思決定をしています。
トレーディングの世界で、プロスペクト理論の問題に対して明確なアプローチを持っていないトレーダーに訪れる未来は、「死」のみです。
利害が絡む世界では、ほとんどの人間は無意識に自分から破滅への道を歩んでいるのです。
プロスペクト理論への対策として有効なのは、参照点を固定することと、「今ココ」という時間と空間を知ることです。
まず1つ目の参照点を固定することですが、プロスペクト理論で厄介なのが、参照点がコロコロ移動してしまうことです。
例えば、エントリーするときは元本を参照点にしてリスクを決めたのに、いざ損失が出ると、参照点は元本にあったはずなのに、気付かぬうちに損失額が参照点になってしまうことが、プロスペクト理論の1番厄介な点だと私は考えています。
元本に対してリスクを決めたのに、損失額が参照点になり、「あといくらまでなら耐えられる」などというように無意識のうちに論点が切り替わっていきます。
これは損失の場合ではなく、ポジションが利益になっている場合でも同じことが起こります。
元本を参照点にして利益額を決めたのに、いざ利益が出ると、参照点が利益額に移動して、利益のちょっとした目減りに惑わされて、予め決めたリミットまで利益を持てなくなってしまうのです。
これらの原因は、全て参照点がコロコロ移動していることが原因です。
一度決めた参照点は決して変えてはならいのです。
参照点として私がおすすめするのは元本に対しての%です。
人によっては、損失額を参照点にするのが合っていたり、利益額にするのが合っていたりするので、個々で検証して参照点を決めていただいて構いませんが、参照点をコロコロと移動させることだけは絶対にしてはいけません。
参照点のルールを守ることが、トレーディングの規律の根源と言っても過言ではありません。
この参照点ルールを守るのは非常に難しいです。
意識していても、気付いたら参照点が変わっていたなんてことは普通にあります。
常に自己内省して、参照点を変えない訓練を積むことが大切です。
2つ目の、「今ココ」という時間と空間についてですが、これは簡単に説明すると、我々が生きているのは、過去でも未来でもなく、今この瞬間であるということを自覚することです。
人間は目の前にある確実な利益を取り、目の前にある損失は回避すると説明しましたが、この問題を解決するために1番手っ取り早いのは、目の前にある損失を確定することです。
それだけで、目の前にある確実な利益と損失を確定して、大きく負けることがなくなります。
これが当たり前にできることが、トレーダーとして生き残るための最初の一歩です。
損失は回避するものではなく、許容するものだということを絶対に忘れてはなりません。
損失を回避しようとする人間は、そもそもトレーディングに向いていません。
損失を回避する傾向がある人の特徴として、「今」という確実な瞬間に意識を向けず、「未来」という不確実なものに意識が向いている傾向にあります。
間違ったことが「今」という瞬間に確認できたらなら、それは確実に間違ったということです。
不確実な未来にその判断を先送りにしてはならないのです。
未来を考慮して戦略を立てることは重要ですが、あくまでも最も重要な判断基準は、今何が起きているのか?です。
コツコツ勝って、コツコツ負けることを繰り返して、その過程の中でドカンと負けることだけは避け、相場で生き残ることが出来れば、ドカンと勝つようなサプライズは必ずあります。
判断を未来に先送りせず、「今」という瞬間にフォーカスして生きることが、プロスペクト理論の特効薬だと私は考えています。
ピークエンドの法則は、我々トレーダーの成長を阻害する。

ピークエンドの法則を簡単に説明すると、人間の頭に最終的に残る記憶は、最もインパクトがあったことと、最後に経験したことの2つであるという法則のことです。ピークとエンドしか頭には残らないということです。
我々トレーダーが、トレード日記をつけなければいけない根本の原因は、このピークエンドの法則にあります。
というのも、記録をつけなければ、我々の頭に残っているのは、最もインパクトが強く、脳裏に刻み込まれたトレードをした時と、直近に行ったトレードしか記憶に残らないからです。
135日前の午後6時にしたトレードの記憶や、456日前の深夜0時にしたトレードの記憶など、記録をつけてない限り、人間の脳みそには残らないのです。
トレード日記をつけていないトレーダーは、ピークとエンドの記憶しか成長するための材料がないのです。
そんなことでは、いつまで経ってもトレーダーとして成功することは出来ないでしょう。
トレード日記には、エントリーした通貨ペアや方向や数量などは一切記録する必要はありません。それらは様々なサービスで代用できます。
そんなことよりもはるかに大事なのが、
- これから行う自分の未来の記録(シナリオ)
- 相場が動いている時の自分の感情
- トレードの結果の振り返り(シナリオ通りに行動できたか?)
- 明日からの改善点
これら4つを紙に手書きで書く事が非常に大切です。
というのも、タイピングよりも、手書きで書くほうが、学習効率がはるかに高いということが科学的に証明されているからです。
エクセルやEvernoteでトレード日記を着けている方は、手書きで書いたほうが効率よく学習できますよ。
これら5つのバイアスの究極のメンタルコントロール術
これまで、5つのバイアスについて解説してきましたが、これら5つのバイアスの全てに有効な究極のメンタルコントロール術があります。
それが、知覚して常に内省することです。
最初にも書いたとおり、これらのバイアスから完全に開放されることは不可能です。
どこかで必ずバイアスに偏ってしまうときがあるでしょう。
しかし、バイアスに偏っていることを知覚して、常に内省することが出来れば、バイアスに自分自身が支配されることはないはずです。
全ての主導権は、バイアスではなく、自分自身にあるということを決して忘れてはいけません。
バイアスをゼロにすることを考えるのではなく、なるべく小さくして、小さなバイアスと仲良く共存していく道を自分なりに模索することが、トレーダーとして長く生き残る最大の秘訣だと私は確信しています。
今回紹介した5つのバイアスの中で、自分はどのバイアスに強く偏っているのかを自覚できたら、紹介した対策を行いながら、自分なりにそのバイアスと共存していく道を探してみてください。
きっとあなたのトレードに大きなブレイクスルーを起こすはずです。